粘土や砂、藁すさを混ぜた自然素材で構成される塗り壁で、伝統的な木造建築に用いられます。調湿性・断熱性・吸音性に優れ、自然な質感が魅力です。乾燥や施工に時間がかかり、施工技術も必要ですが、環境負荷が低くエコ建材としても注目されています。下地用の「荒壁土」、仕上げ用の「中塗り土」など複数の工程があります。

名称土壁(中塗り土、荒壁土)
大分類左官材
小分類 -
特徴 【荒壁土】:粘土質の土にワラすさ(藁繊維)を混ぜたもの。下地塗り用で厚く施工される。【中塗り土】:荒壁土より細かく、仕上げ前の中間層に用いる土。粒子が細かくなめらか
肌目 荒壁土はざらっとしてワラの繊維が見える素朴な質感。中塗り土はよりなめらかで、次の仕上げ層との密着性が高い。どちらも自然な土色
用途 和室・町家・古民家などの伝統的な左官壁材。荒壁土:竹小舞などの下地に塗る下塗り材中塗り土:仕上げ前の調整層として使用
産地・メーカー 国内では島根(出雲地方)、兵庫(丹波)、岐阜(美濃)、福岡(八女)などに良質な壁土の産地あり。左官職人による現場練りが一般的

土壁(中塗り土、荒壁土)の概要・特徴

土壁は、日本の伝統的な家づくりで古くから使われてきた、土を主原料とする塗り壁です。一般的に、土壁は一度に塗って完成するのではなく、「荒壁(あらかべ)」→「中塗り(なかぬり)」→「上塗り(うわぬり)」という順序で、層を重ねて作られます。

  • 荒壁土(あらかべつち):壁の骨格となる「竹小舞(たけこまい)」という竹を編んだ下地の上に、一番最初に塗る土です。乾燥によるひび割れを防ぐため、藁(わら)などの繊維をたくさん混ぜ込んでいるのが特徴で、壁の強度を出すための重要な役割を担います。
  • 中塗り土(なかぬりつち):荒壁が十分に乾燥した後、その上に塗る土です。荒壁土よりもきめ細かい土を使い、壁の表面を平らに整える役割があります。この中塗り土の状態で仕上げとすることも多く、これが一般的にイメージされる「土壁」の見た目になります。

土壁の最大の特徴は、自然素材そのものであるため、湿気を吸ったり吐いたりする「調湿性」や、熱を蓄えてゆっくりと放出する「蓄熱性」に非常に優れている点です。

土壁(中塗り土、荒壁土)のメリットとデメリット

メリット

  • 優れた調湿性能:室内の湿度が高い時は湿気を吸収し、乾燥している時は放出するため、一年を通して快適な湿度環境を保ちやすく、結露やカビの発生を抑制します。
  • 高い蓄熱性:壁自体が熱を蓄えるため、冬は暖房の熱を蓄えてじんわりと放出し、夏は日中の熱を蓄えて夜間に放出することで、室温の変化を緩やかにします。
  • 優れた防火性:土は燃えないため、火災に非常に強いです。
  • 高い安全性と環境性能:化学物質を含まないため、シックハウス症候群の心配がありません。また、解体後は土に還る、環境に優しいサステナブルな素材です。

デメリット

  • 工期が非常に長い:特に荒壁は、完全に乾燥するまでに数ヶ月から半年以上かかることもあり、現代のスピードが求められる家づくりには向いていません。
  • コストが非常に高い:材料費よりも、竹小舞を編む職人や、土壁を塗る左官職人の手間賃(人件費)が非常にかかります。
  • 強度が低い:表面を強くこすると、土がポロポロと剥がれ落ちることがあります。また、地震の揺れで壁が脱落する可能性もあります。
  • 施工できる職人が希少:竹小舞を組める職人も、土壁の施工経験が豊富な左官職人も、現在では非常に少なくなっています。

土壁(中塗り土、荒壁土)の用途

土壁は、その工期やコストの問題から、現在の一般的な住宅で採用されることは稀ですが、以下のような場所で使われます。

  • 伝統的な日本建築:茶室や数寄屋造り、本格的な和室など、伝統的な工法で建てる際の壁。
  • 古民家の再生・修復:既存の土壁を修復したり、その風合いを再現したりする場合。
  • 自然素材にこだわる住宅:健康や環境性能を最優先に考える方が、あえて内装の壁として採用することがあります。